その夜、白鳥蔵の記事広告を書く準備をした。「蓬命酒」ができたいきさつをヤマトタケルの逸話と絡めて紹介するつもりだ。
 河内地方は応神、仁徳天皇の河内王権中心地で各地に古墳が点在している。ヤマトタケルは亡くなると白鳥に姿を変えて飛んで戻ってきた。降り立った場所が羽曳野(はびきの)市の白鳥陵古墳だ。古墳群が世界遺産に認定されると整備が進み、これまで何度かコラムで取り上げたことがある。
 簡単に資料をまとめると、白鳥霧からもらった「蓬命酒」をナイトキャップ代わりにして布団に入った。
 明け方、夢を見た。霧の中を一羽の白鳥が飛んでいる。それは一本の矢のように真っ直ぐに、でも、穏やかで止まっているようにも見えた。私は地上から白鳥を見上げながら霧雨に額を濡らしながら震えている。降りてきて欲しい、と願うが白鳥はたった一羽で飛び続ける。
 いつしか霧雨は雪に変わっていた。積もらない淡い雪が空から舞い落ちてきて、私の周りをまだらに白に変えた。
 白鳥はもう見えない。それでも、私はいつまでも空を見上げて佇んでいた。
 眼が覚めると、また頬が熱かった。私は布団の中でしばらくじっとしていた。雪の中を飛び続ける白鳥はどれだけ寂しく、どれだけ美しかったか。
 白鳥を歌った歌は多い。教科書にも取り上げられて有名なのは若山牧水だろうか。

 白鳥(しらとり)は哀しからずや 空の青海のあをにも染まずただよふ

 哀しからずや、と口の中で呟くと、空を行く白鳥が鮮やかに見えた。私は布団の中で熱い息を吐いた。
 白鳥霧。あの男は哀しくはない。だが、寂しすぎて今にも飛び去ってしまいそうだった。