空腹と心配と疲労で朦朧としながら、もう一度、管理会社のコールセンターに電話してみることにした。「翌朝までにうさぎに餌をあげないと、最悪、死んでしまうかもしれないんです」と、藁にもすがる思いで熱弁をふるう。
社員はすでに退勤したため、翌朝9時までは何もできないとマニュアル通りの返事だが、同情してくれている様子だけは伝わってくる。気づくと、作業開始から1時間も経っているではないか。
「ガシャン」。待ちに待った開錠音が廊下に響き渡った。
お礼を伝えて、うさぎと半日ぶりに感動の再会を果たし、晩ごはんをあげると、インターネットで紛失物の探し方を検索してみる。紛失防止タグの利用を勧めるページが多いが、そんなものはつけていない。代わりに、はさみを耳元で開閉しながらおまじないを唱えると探し物が出てくる、という情報に目が留まった。
普段ならそんな迷信は鼻で笑うところだが、今日は違う。キッチンばさみをチョキチョキしながら真剣に唱えてみる。「はさみさん、はさみさん、私の鍵はどこ」。もちろん返事はない。
翌朝、再度職場を探しまわったが、やはり出てこなかった。上司にも聞いてみたが、心当たりはないとのこと。帰宅して、棒のようになった足を伸ばすと、居間の椅子に置きっぱなしにしていたランチバッグに目が留まる。
「さてと、片付けるか」。手を伸ばした瞬間、外ポケットに硬い物を感じた。鍵だ!外ポケットは深めに作られていて、最初探したときには気づかなかったのだ。
週が明けて、上司にお礼かたがた報告すると、どこから出てきたのか聞かれた。こんなに大騒ぎして、ランチバッグに入っていたとも言えないだろう。
「机の引き出しにありました」。あいまいな笑みを浮かべ、小声で呟いた。