なかなか捨てられなかった理由――それは、このダウンが…(写真:stock.adobe.com)
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命を救ってくれたダウン

黒いショート丈のダウンコートを、10年あまり大事に着ていた。袖がすり切れ、縫い目から羽毛が出てきても、補修テープを貼って使い続けた。しかし友人に忠告され、ついに処分することを決意。なかなか捨てられなかった理由――それは、このダウンが命を救ってくれたからである。

8年前のこと。年末で人出の多いなか、私は電車とホームの隙間に落ちてしまった。それも胸の下まで。スリムでゴボウのような体形であった私がそこで止まれたのは、着ていたダウンがストッパーの役割を果たしたから。

周りの人たちが引き上げようとしてくれたが、すっぽりはまってしまい、両腕に力を入れてもなかなか抜け出すことができない。身体を横向きにし、片足を出しながら、ようやく抜け出すことができた時は、涙が出るほど嬉しかった。

「よかったですね!」拍手が起きた後、駅員から怪我の有無を聞かれたが、特に異変は感じられない。普通に歩いて家に帰ると、足と腰に赤く打ち身ができているのを発見したが、病院に行こうかと迷っているうちに消えてしまった。

そんな思い出のある品だったが、自分に合うピッタリのダウンを手に入れることができたので、件のダウンは袋に包んで手を合わせて捨てた。「ありがとう」と。


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