ジャックの不安

モーリーンはヒッチハイクの旅に出発してから数日後に、父親に電話をかけていた。フランスのリヨンからだった。「いつ帰るかはまだ分からない、何人かの若者と知り合いになったのでこれから行動をともにする」と言っていた。

ジャックの不安は高まった。

『死体は語りだす:法医学医が読み解く「死者からのメッセージ」』(著:フィリップ・ボクソ 訳:神田順子/三笠書房)

娘に電話しても、もはや呼び出し音も鳴らない。そこでメッセージアプリのアカウントに大量のメッセージを送った。1日に何度も。だが返事はない。

そこでジャックは警察に失踪届を出すことにした。当番の警察官が対応してくれた。

「家出ですか?」
「家出? 違います! フランスに旅行に出かけたのですが、2週間前から連絡が途絶えているのです」
「なるほど。今どきの若者は……、私の息子も……」

警察官は自身の息子について長々と愚痴ったが、娘を見つけ出すことだけを願っているジャックを安心させることはできなかった。

「娘さんを行方不明者としてBCSに登録しました。何か分かればすぐにお知らせします。それではまた!」

話はここまでです、お引き取りください、と言われたのも同然だった。

ジャックはBCSが何だか知らなかったが、BCSとやらが迅速に動いてくれるといいのだが、と期待する一方で、警察官の態度から考えて悲観的にならざるを得なかった。BCSはBulletin Central de Signalement(通報中央記録)の略であり、全国の警察組織にメッセージを流すためのアプリを指す。モーリーンの失踪は、このアプリを通じて捜査当局の各方面に周知された。

これは、思いがけず短期間で結果をもたらすことになる。

「娘さんの顔は……見ないほうがいいでしょう」

その日の朝、ジャックは自宅にいて、買い物に出かける準備をしていた。