災厄
さて、それよりも少し前、警官のメフディが職場に着くと、同僚たちがほっと安堵の表情を浮かべた。メフディは、全員が嫌がる使命を果たす適任者と見なされていたからだ。同僚たちが口を揃えて言うには、ご家族に悲報を告げる仕事を誰よりもうまくやってのけるのがメフディであった。メフディ本人はこの意見に賛同していなかったが、警察署では一番の若手、新人であり、皆が嫌がる仕事を押しつけられても断れなかった。
この日にメフディを待っていたのは、妻を亡くしたばかりの父親に娘の死亡を告げるというつらい使命であった。楽しい週末を過ごしたことは、メフディにとって幸いだった。神経をすり減らすきつい仕事に立ち向かうには、楽しい思い出のストックが必要だ。
玄関の呼び鈴が鳴ったとき、ジャックは外出のために服装を整え、手には買い物リストを持っていた。扉を開けると、制服を着たメフディが立っていた。傍らには警官見習いが控えている。
「こんにちは。ジャック・Xさんですか?」
「はい、そうです」
ジャックは2人の警官が娘のことでやって来たとは思いもよらず、警察の訪問を受けるようなことを自分がしでかしたのだろうか、と自問した。交通違反の罰金の未納? 駐車違反? 道路交通法は以前と比べて厳しくなっているので、走行中に気づかずに違反を犯している可能性はある。
「中に入ってもよろしいでしょうか?」
「外出するところでしたが、どうぞお入りください。コーヒーはいかがですか?」
「いえ、結構です。お気遣いは不要です。実は、まことに残念なお知らせがあるのです。どうぞ、お座りください」
ジャックは椅子に座った。この時点でも、警察官がこうしてやって来たのは娘の死を告げるためだとは夢にも思わなかった。モーリーンはフランスにいるはずだ。
告知は唐突だった。しかし、このような知らせを告げる好ましいやり方など存在しない。ショックの度合いがいくらか小さい伝え方というものはあるかもしれないが……。メフディは最大限に言葉を選びながら使命を果たした。だが、ジャックを苦しめる知らせは、これに留まらなかった。
ジャックは最初のうちは半信半疑で、自分は悪い夢を見ているのではないか、と思った。ほんの数秒で彼の人生は音を立てて崩壊した。自分の人生はもはや取り返しがつかないことになった、と悟った。妻の死という過酷な体験を経たのに、さらなる悲劇が待っていたとは。不公平ではないか。自分は何も悪事を働いたことがないのに。だが人生というものは不公正なのだ。人生は公平であって欲しいし、悪事は罰せられ、善行が報われる人生であって欲しい、と私たちは望むが、人生が公平であったことは一度もないのだ。自然災害が善人にも降りかかるように。
茫然自失し、自分を襲った災厄を完全には理解できぬまま、ジャックは娘の死の経緯を尋ねた。
メフディは「娘さんは殺害されました」と告げた。