賃金版「フォワードガイダンス」
政府はそこに注目し、最賃引き上げの新機軸を打ち出してきた。かつては、毎年夏にその年の最賃を決めるやり方だった。23年夏にその慣行を改め、その年だけでなく、将来にわたる最賃を首相が約束する方式を始めた。岸田首相は、当時約1000円(時給)だった最賃を2030年代半ばまで段階的に引き上げ、10年後に1500円にすると約束した。石破首相はこの計画をもう一段加速させ、1500円を2030年までの5年間で実現するとの意向を表明した。
最賃の先々の水準まで約束する意味はどこにあるのか。先々の水準が公表されていれば、賃上げ交渉の際に労使の目線が揃い、高い賃上げが実現しやすくなる。25年春闘での中小労組の健闘はその証左だ。一方、企業側は、中長期の経営計画を立てる際に、労務費がどの程度になるかの目途が立ち、労務費上昇を賄うべく生産性向上投資に取り組むなど、必要な手立てを前もって講じることができる。
金融政策の手法で「フォワードガイダンス」とよばれるものがある。「フォワード」は先々の、そして、「ガイダンス」は指し示すという意味だ。これは、中央銀行が将来の政策金利の水準をアナウンスすることにより経済をコントロールする手法だ。
例えば、経済がデフレ気味で本来であれば利下げで景気を刺激したいところだが、政策金利が既にゼロ%のフロアに達していて、それ以上の金融緩和(利下げ)ができない状況だったとする。しかし、この場合でも、先々の政策金利を低い水準(例えばゼロ%)に維持すると中央銀行がアナウンスすることにより、長い期間、例えば10年物国債の金利を下げ、それによって景気を刺激できる。これがフォワードガイダンスだ。
