賃金の「底」を創るというルーズベルト大統領の発想

机上の空論に聞こえるかもしれないが、たぶんそうではない。最賃がそうした効果を発揮した事例があるからだ。今から約100年前、大恐慌期の米国ではデフレをいかにして止めるかが最重要の課題で、その際に当時のルーズベルト大統領が活用したのが最賃だった。

当時米国では最賃制度に反対意見が多く、制度は確立されていなかった。しかし、激しく下落する賃金の「底」を人為的に創ることを狙い、反対派を押し切って最賃制度を新設した。このときの一連の施策はデフレ予想の払拭に決定的に重要な役割を果たしたと言われている。

現在の日本に話を戻すと、これだけのメリットが期待できるにもかかわらず、最賃引き上げに否定的な見方が少なくない。賃上げの原資確保に不安を抱く中小企業経営者が少なくないからだ。その根っこには、下請け企業の価格交渉力が弱く、親企業に対して賃上げ分の価格転嫁を言い出せないという現状がある。

政府はこの点を是正すべく、25年7月に下請法を改正した(26年1月から、新たに「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行された)。新法の厳格な法執行により、中小企業と大企業の間のアンフェアな取引関係の是正を急ぐ必要がある。

わが国の最賃は国際的にみて低く、「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営む」という法の趣旨からしても、引き上げは必須だ。できるかどうかではなく、いかにして可能にするかを社会全体で議論すべきだ。

※本稿は、『インフレの時代-賃金・物価・金利のゆくえ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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