祈りの歌、イヤホンで聴く歌
五木 歌というのは、不思議な力を持っているものなんですよ。あるとき、和歌山県のお寺で開かれた念仏会(ねんぶつえ)の催しに参加したのですが、お寺の本堂には老若男女問わず大勢が集まっていて、講師の人が、一生懸命、説教をするんです。
そのうち、講師の言葉が熱を帯びてくると、その熱気がお客さんに伝わって、エネルギーが言葉とともに会場いっぱいに広がっていく。
タブレット ええ。
五木 そして、感極まった参加者たちから自然発生的に「なんまいだ、なんまいだ……」という声が湧き上がってくるんです。そして、語り手も聴衆も一体となって、なんというか「なんまいだー」の言霊が姿を現すような、本当に不思議な感覚になりました。日本のゴスペルだね。
タブレット 凄い体験ですね。
五木 この念仏歌(うた)こそ日本人の祈りの原点であり、歌の原型だと感激したことを憶えています。
タブレット みんなで歌って気持ちが高揚したり明るくなったりというのと、カラオケは少し違うと思うんです。一人ひとりがスター気分になるけれど、みんなで心を合わせて幸せになるといった感覚ではないですね。
五木 昔は歩きながらでも、一杯飲んだ後でも、歌謡曲をみんなで声を合わせて歌ったものですが。子どもも大人も、ところかまわず歌っていた気がします。
タブレット カラオケブームで、思い思いに歌うようになり、さらにデジタルの発達で、歌の共有がなくなったのでしょうか。
五木 茶の間のテレビの前に家族が集まり、同じ歌番組を見て、好きだの嫌いだのと意見を言うような光景はなくなりましたね。今はそれぞれイヤホンで歌を独り占めする時代ですから。
ところで、タブレットさんが歌い手として目指していらっしゃるものはなんですか?