「人は悲しいときに、明るい歌で元気づけられるものではない。悲しいときこそ、〈わかるよ。生きていくことは本当に大変だね〉と寄り添ってくれる言葉が、折れそうになる心を支えてくれるものなんです」(五木さん)
五木 やはりタバコを吸ったり、お酒を飲んだりして、肩ひじ張っていないと、「なんだこのガキ」とバカにされますから。酒盛りでは、みんなが歌うわけです。記憶のなかにある昔の歌を。
タブレット どんな曲ですか?
五木 いろいろな歌を歌いました。「誰か故郷を想わざる」とか。なかでも印象に残っているのが東海林太郎さんの「国境の町」ですね。この歌は、故郷を遠く離れて、異国で一人暮らす男の、身を切られるような孤独感がひしひしと伝わってくる。
人は悲しいときに、明るい歌で元気づけられるものではない。悲しいときこそ、「わかるよ。生きていくことは本当に大変だね」と寄り添ってくれる言葉が、折れそうになる心を支えてくれるものなんです。
タブレット よくわかります。
五木 あのときほど、歌の歌詞が身に沁みて迫った時代はなかったですね。涙ながらに歌っていると、なんとか生きていかなくちゃ……と立ち上がる力が湧いてくる。あの古い歌、さすらいの歌などがなかったら、生きて帰れなかったんじゃないか。その点で、歌は僕の恩人と言ってもいいと思う。
タブレット そのお言葉、本当に同感です。ぼくもずっと歌に縋(すが)って生きてきましたから。