最初の家の縁側で、父の檀一雄さんと談笑する檀さん。檀さんの著書『父の縁側、私の書斎』(新潮文庫)の表紙にもなった一枚(写真提供:新潮社)

母と一緒に引いた辞書は手元に

一番問題になったのは蔵書です。2番目の家は雨漏りするようになったうえ、本棚の後ろがネズミの巣に。そのため、汚れている本もかなりありました。ただ、父が小説のために集めた貴重な資料もあるはず。以前、ある作家さんから、「古書店で資料を探していたら、そういう本は檀さんのところにあると店主から言われた」と聞いたこともあります。

知り合いの古書に明るい方に見ていただいたところ、今は復刻本が出ているので、資料としての価値はほとんどないとのこと。そこで自分がとっておきたい本だけ抜いて、あとは古書店に引き取っていただきました。

ちなみに私が抜いたのは、全巻そろっている作家の全集、古い文学全集を1セット、作家仲間から父に献本された署名が入っている本。そして、私にとって思い出のある本です。たとえばボロボロになった戦前の『名歌辞典』は、和歌の一部しか思い出せない時、母と一緒に引いた記憶があります。

新居には2000冊所蔵が可能なのですが、時間が足りず1000冊ほどしか残せませんでした。古書店の方に来ていただいたのは引越し翌日。私と妹で、片付けきれなかったものを始末しに戻っていた時です。思わず発したであろう「汚ねぇ~っ」という声に、申し訳なくて胸がつぶれそうでした。