夏樹 検査で手術が必要だとわかったのですが、仕事に穴はあけられません。手術はコンサート後にして、舞台上では固定した右手をショールで隠して歌いました。事情を知る人以外、誰も気づかなかったと思います。
そして公演翌日、一晩入院して手術を受けました。今も手首には、チタンのプレートが入っています。これは抜かなくていいそうですが、空港にある金属探知機ゲートを通っても引っかからないと言われました。(笑)
伊藤 はい、最近は入れたままにしておく治療法になっています。今こうして拝見しても、傷跡は全然目立たないですね。
夏樹 そうなんです、お上手な先生で。術後1ヵ月ほどリハビリに通いましたが、感覚が戻るまで1年かかりました。それにしても、手首が使えないと洋服を着るのも難しいし、大好きな車の運転もできなくて。
特に私の車は左ハンドルギア付きなので、右手でチェンジしなくてはならず、半年乗れませんでした(涙)。あらためて骨の大切さを知った気がします。
伊藤 実は私も、40歳のときにスキーで脚の脛を骨折しています。翌日、都内の病院で緊急手術を受けたのですが、その際、担当してくれた勤務先の先輩医師から「骨粗しょう症なんじゃない?」と冗談を言われて。
実際は違ったものの、「もうそんな年齢か」とショックでした。たしかに40代からは骨密度が低下していくので、気をつけなければなりません。
夏樹 先生は、その頃から骨粗しょう症をご専門に?
伊藤 当時は脊椎の外科医としてヘルニアや骨折、人工関節の手術を担当していました。でも自分が骨折して初めて、「骨は元通りくっついても、周囲の筋肉や組織はなかなか回復しない」ことを実感したんです。
寒くなると引きつるような痛みがあり、「治った」という実感を持てたのは、ケガから2~3年後だったでしょうか。骨折しない体づくりの大切さを身をもって感じたことが、骨粗しょう症を専門にするきっかけになりました。