ラクダの赤血球は特別!

さて、渇いた状態のラクダに水を与えると、一気飲みします。人間の場合、飲めるのはせいぜい1リットルですが、ラクダは200リットル、小形のバスタブ1杯分を一気に飲み、巨大な胃にいったん溜めます。

胃から水を吸収するのはごくゆっくりとです。急に水を取り込むと血液が薄まり、赤血球が破裂する危険があるからです。それでも水を飲んだ後のラクダの血はかなり薄まります。逆に水を飲まずにいると、血液はどんどん濃くなっていく。結局、ラクダは血液に水を溜め込んで砂漠を歩いているんです。

それができるのは、ラクダの赤血球が特別だから。他の哺乳類のものよりも小形で、形は薄い楕円形。この赤血球の細胞膜はよく伸び縮みし、大きく形を変えられます。おかげで一気に水を飲んで血液が薄まり赤血球の内部に水が入ってきた時でも破裂することなく、直径が2.4倍にも膨れ上がります。逆に水気が抜けた時には、血液量が減って細くなった血管でも、この赤血球は小形で薄いから血管内をすり抜けて流れていけます。

じつは赤血球の中にあって酸素を運ぶヘモグロビンも、ラクダのものは特別です。酸素と結びつく力が強く、肺でたくさんの酸素をくっつけて末端の組織まで運んで酸欠を回避できます。そしてこの能力を使い、ラクダは水のない状態になると呼吸数を減らします。吐く息には水蒸気が含まれますから、呼吸のたびに水分が逃げていく。だから呼吸数を減らせば節水になります。

呼吸で水が逃げるのを防ぐ別の仕組みもラクダは持っています。ラクダは顔が突き出ています。イヌもそうですね。空気が鼻の穴から喉へと通っていく道(鼻道)が、ラクダもイヌもかなり長い。この鼻道の壁は粘膜で裏打ちされていて、粘膜はいつも湿っています。イヌの鼻は冷たくて湿っていますね。ラクダもそうです。このことが肺から水分が逃げないようにしています。

この冷えた鼻は体温調節にも使えます。冷えた鼻道に接している静脈血を冷やし、これを使って脳に行く血を冷やします。脳は暑さに一番弱い組織です。脳さえ冷やしておけば、あとの部分が41度になってもラクダは大丈夫。41度とは、われわれなら細胞が壊れる温度です。

ではまとめの歌「ラクダの鼻」を。ちなみにこれはシュミット=ニールセンの自伝のタイトルです。

♪ラクダの鼻
四一度になった時
初めて 汗で 冷やします 
それまでじっと がまんの子
体温 上がるに まかせます

冷たい鼻で 肺からの
逃げていく水 減らします
冷たい鼻は 大切な
脳を冷やすにも 使います

※本稿は、『すごい生きもの春夏秋冬』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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すごい生きもの春夏秋冬』(著:本川達雄/中央公論新社)

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