施設の人に愛されていた父

母が亡くなった後、父はそのまま1人で施設で生活していました。日常生活の心配はいりませんが、やがて父にもうっすらと認知症の症状が出るようになったんです。ただ、母と違って幻覚や幻聴といった症状ではなく、言ったことを繰り返したり、ストレートなキツイ物言いだったりしたので、「お年寄特有の頑固さかな」と思いこんでいました。

でも、父の通院に付き添ったある日、診察時に医師から「お父さん相当おかしいよ、話がなにも通じないよ」と言われたんです。母のことがあったので、その場では何も言いませんでしたし、それ以降も父に対して、改めて認知症だと指摘はしませんでした。

母の時には「母が言われたくないこと」を言って、心を閉ざされてしまった。だから、父に対しては、施設の方とコミュニケーションを取り、認知症については直接的に触れず、父の様子を窺いながら対応しました。母の時の二の舞にはなりたくなかったんです。

『とりぷるばーば 水曜日のカレーライス』書影
『とりぷるばーば 水曜日のかれーらいす』(著:佐々木 禎子/PHP研究所)

父が肺炎で亡くなったのは2024年の年末。父の葬儀には施設の方も来てくださいました。私の知らない父のかわいらしい側面を語って下さって嬉しかったです。私にとっては手に負えない父だったんですよ。なかなか運転免許は返納してくれなかったし、趣味の投資もうまくないのに最後までやめてくれなくて口座残高が減っていくのをハラハラ見守っていました。ガミガミうるさい父でしたが、施設の方から愛されていたことを知ることができて、愛おしく思えました。