嘘をつくのは面倒くさい

あれは31歳のときだったかな。ドラマ『西遊記』で孫悟空を演じたのですが、事務所に「猿の役なんかやらせないで」「イメージと違う」という抗議の電話や手紙が殺到したんです。当時はアイドル俳優のような扱いでしたから。

でも、僕自身はいろいろな役を演りたかったし、孫悟空は体が動く若いうちしかできないと思っていました。そして、好調な時期なら人気の落ち幅が少なくて済むとも考えていた。人気が翳ってから猿の格好をしたら、絶対に「あの人、落ちたね」と言われるじゃない。

計算していたわけではなく、やっと俳優で食えるようになるという夢が叶ったんだから、このチャンスを生かしたいと真剣に考えていたんです。

今も仕事に対する情熱は変わっていません。僕は監督の言うことは絶対に聞くようにしていますが、正直者だから、自分はこう思う、こうしたいといった意見は伝えます。

だって我慢したり嘘をついたりしたら、誤魔化すために嘘を重ねることになるし、面倒くさいじゃない? だからといって何を言ってもいいというわけではないけれど。それを上手に伝えることができるのが、本当の《大人》なんじゃないかな。

僕にとって大人になるというのは、丸くなることではありません。むしろ大事にしているのは、日々の中での小さな怒り。

たとえばニュースで戦争のことが報じられていたら、それを他人事のように受け流すのではなく、怒りを覚えることが人としての成熟だという気がします。その感性は、思いやりや感謝にも通じると思うしね。

でも今回、映画『ミステリー・アリーナ』で演じたのは、その欠片(かけら)もない男でした。(笑)

後編につづく

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