顔に傷がない美男子

4歳になっても顔に傷がない美しいオスグマが稀にいる。幼少のときに強い母グマに守られ、子別れ後も母グマの近くで暮らしているとそうなるようだ。

山際を歩く4歳のイケメングマ(写真提供:米田一彦)

そんなオスグマは、体の質感と黒い毛のグラデーションの滑らかさに惚れ惚れさせられる。クマは初夏になるとつねにアブの類に襲われて血を吸われ、耳の縁がただれてぼろぼろになっているものだが、このクマは耳の縁まできれいだ。

『家に帰ったらクマがいた』(著:米田一彦/PHP研究所)

若グマ、母子グマは慎重で、7月中は畑の中央に出ず、山際を移動している。この美男子グマもそのように歩いていた。8月になりダイズの背丈が伸びると、どのクマも大胆になって畑の中央まで進出して採食する。

畑の中にいるクマを観察している際、クマの視線をまともに浴びてしまったときの緊張感は凄まじい。

クマにはこれ以上近寄ってほしくない距離というものがある。大体は7メートルほどが臨界点で、このクマもそこまでは近寄れる。母子グマやメスグマは10メートルほどで、オスよりは逃げやすい。

森林で会うクマには、立木のように立っていれば意外と気づかれないものだ。阿仁のマタギたちはクマに気取られないように立木の陰に隠れる方法を「木化け」と言っていたが、それを私は無意識にやってきたようだ。