順調な出足

中学1年の出足は順調だった。誰もが光を男の子だと思っているように見えた。男の子としての光はクラスに馴染み、友だちも少しずつ増えていった。勉強も順調によくできた。進学校ではあるが、あまり勉強を強制するという校風ではなく、宿題もそれほど多くない。自由な雰囲気の中でみんなが自分のペースで勉強するという感じだ。光の成績は最初の頃から学年で上位10%に入っていた。特に国語と英語がよくできて、学力試験で国語が学年2位のこともあった。

クラブは美術部を迷わず選んだ。先輩たちと一緒に絵を描くと、光は誰よりもうまかった。2学年上にエースの女子がいたが、光は負けていなかった。「期待の大型新人!」とみんなから歓迎される。光も悪い気はしない。その先輩女子は絵柄が「漫画系」「ファンタジー系」で、光の絵は「イラスト」「写実系」だったため、内容が被らない。それがよかった。先輩女子は「光君、うまい!」と褒めて、可愛がってくれた。

『性別違和に生まれて-父と子で綴った23年』(著:松永正訓/中央公論新社)

光は体育の時間になると、保健室に行って着替えをする。養護教諭はもちろん光が女であることを知っている。教師はいつでも光を歓迎した。光にとって保健室は居心地のいい場所だった。用がなくても保健室へ行って教師とおしゃべりをすることがあった。また保健室は、登校に困難を抱える子の避難場所でもある。実際そういう子が何人かいた。その空間で光は寛いだ。

暑い夏が来た。男子生徒は学ランを脱ぎ、ワイシャツ1枚になる。光はワイシャツ姿になることができなかった。胸が目立ってしまうからだ。そのため、ワイシャツの上にベストを着た。体育の授業も同様だった。みんな半袖短パンの体操着姿になる。光は、その上から長袖のジャージを着て胸を隠した。暑くて堪らなかった。水泳の授業は見学した。