カミングアウトした方が楽に

2年生になり、クラス替えになった。予期しないことが起きた。いや、予期すべきだったのに、私の頭になかった。クラスの男子生徒たちが次々と第二次性徴を迎える時期に入ったのである。みんなグングン背が伸びて、声が低くなり、喉仏が出てきた。子どもから大人に変わろうとしていた。

光は小学4年生のときに身長が155センチメートルになり、そこからまったく伸びていなかった。クラスの男子の中で、光だけちょっと異質の存在になった。光はそのことを嘆いた。

「父さん、ボクだけ全然体つきが違うんだよ。みんなどんどん大人になっていくんだよ」

「うーん、でもそれはしかたないよね」

光は肌がきれいでニキビもほとんどなかった。小学生のような幼い顔のままだった。

私は心の中で、まさか男性ホルモンの注射を打ちたいなんて言わないよねと呟いていた。私がそれを口にすれば、光がやってみたいと言い出しそうで怖かった。でも同時に、光が男の身体に変身することを望んでいるようにも見えなかった。

また、ちょっと信じられないことが起きた。光とは別のクラスの女子が「自分は性別違和だ」と言い出したのである。保健室登校をしていた子である。その子の家族は学校と話し合いを持ったらしく、それまでは女子の制服で登校していたが、ある日を境に突然、男子になった。本人も「これからは男ってことで!」と明け透けだったので、周囲はみんなその子を受け入れた。その子の周囲にはいつも男子生徒が集まっていた。

私はその話を聞いて、光も改めてカミングアウトした方が楽になれるのではないかという気持ちと、今のまま静かに男として生きていく方が無難なのではという気持ちが交錯した。私は何度も光に問いかけた。

「どう思う、光? みんなに言う?」

「言うのはいや。引かれちゃうかもしれない。このままがいい」

光は暗い表情でその都度そう答えた。何か深く考えているようだったが、光が自分の胸のうちを詳しく語ることはなかった。

※本稿は、『性別違和に生まれて-父と子で綴った23年』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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性別違和に生まれて-父と子で綴った23年』(著:松永正訓/中央公論新社)

わが子が性別違和を訴えた。

いきなり学ランを着て学校に行くということに、私の意識は追いつかなかった。

互いの思いを答え合わせのように綴り合い、実子が自分らしさを取り戻すまでの23年間を描いた渾身のルポルタージュ。