恋心なんて持てるわけなかったの
でも、パー子が非凡なのは「落語ができない? じゃあ、何かやれ」と言われて、子供の頃に稽古した日本舞踊とお三味線を披露したんだって。そしたらそれなりに様になったのよ。なんたって『紀伊国屋文左衛門』って12分ほどある演目をやってみせたっていうんだから。
それがけっこう評判がよかったもんだから、三味線漫才の内海桂子・好江師匠から何か注意されたりしたこともあったって。ま、大先輩の目に留まったってことは、それはそれでまた大変なことなんだけどね。
ともかく、営業が終わるとグッタリして、しかも夜道でしょ。有名な料亭の前でパー子が終わるのを待っていたことがよくあったわね。その待っている間が複雑でね。さっきも言ったように、僕は弟子になって4年経つのに、どこへ行ってもいつまで経ってもギター伴奏の師匠の弟子。
一方、パー子は小山ゆうえんちで『林家パー子ショー』なんて、自分の名を冠したショーをしてたりする。それを見ていると、芸人として悲しくなったり胸が掻き乱されたりするけど、先輩の意地で、顔にも態度にも出せない。恋心なんて持てるわけなかったの。