どこの国の男が一番好きか

三浦は相変わらず鼠を二百匹も飼って、ビタミンCの研究に余念もなかった。

其頃、私はローザライザーについて、シカゴで指揮者(コンダクター)をしていた、アール・フランケッティと知り合ったのである。其時は其まま別れたが、後に私がフランケッティを自分の伴奏者(マエストロ)として選ぶにいたった理由は、第一に彼は非常に音楽をよく理解している。自分で作曲もする。どんな難しい曲もソロで弾いてしまう。音楽に対して、非常な情熱を持っている。だから伴奏者としては此上もない適任者だと思ったからである。

私はよく、世界を旅行してどこの国の男が一番好きかと聞かれることがある。その時には私は躊躇なく伊太利と答えるだろう。

私は恋愛に対しても、芸術に対しても、全く情熱のありったけを傾倒しなければ、生きている甲斐がないと迄考える女なのである。もしも私の歌が、年を取っても甘く、艶やかであると不思議がられるならそれは私に情熱のまだ消えない証拠である。何ものかを愛しているという気持、それはすべての芸術的なものの源泉だと思う。

私はよく子供の歌を歌う。子どもの歌を歌う時は私は本当に楽しいのである。私は自分には子供はないが、子どもを可愛いと思う心、つまり子供を愛する情熱は人の何倍か深いのであろうと自分乍ら驚くことがある、それでなければ、あんな風に子供になり切って子供の歌は歌えないのである。

世界で情熱的な男といえばスペイン人か伊太利人であろう。しかしスペイン人は私の知る範囲では、非常に御しゃれな浮気っぽい人が多く、真面目に愛したり結婚したりするならば、伊太利人が、最も私の性格にあったものであろうと考えることがあった。