世間から「大丈夫?」と思われがちな生涯独身、フリーランス、50代の小林久乃さんが綴る“雑”で“脱力”系のゆるーいエッセイ。「人生、少しでもサボりたい」と常々考える小林さんの体験談の数々は、読んでいるうちに心も気持ちも軽くなるかもしれません。第63回は「壁に耳あり障子に目あり」です。
機密情報がダダ漏れ
「おつかれさまです。先日の××さんとの打ち合わせで出たんですけど、最終的に予算が ××くらいで、ちょっと渋い感じですね」
ノートパソコンを抱えて、気分転換にと入店したカフェでえらい会話が聞こえてきた。コロナ禍以来、リモートで仕事をしている会社員が増えて、我々ノマドワーカーの作業スペースが侵食されてから数年。一時は座席確保もフルーツバスケット化していたけれど、だいぶ緩和された。着実に静けさと各々の集中力が戻ってきている。そんな店内でとある男性会社員によるオンライン会議の声が聞こえてきた。
「先日、調査会社の××に頼んだ結果、共有しますね。まあ、結構アレなので……ターゲットにしている中年層にはいいんじゃないスかね……」
部外者が聞いても理解できるほど、結構な機密情報を店内にスピーカーのごとく漏らしている。もし偶然にも私がライバル会社の人間だったら、録音する。男性会社員はおそらく20代後半か30歳前後くらいだろう。機密管理に関して会社からどんな指示を受けたのかは知らないが、周囲に聞こえている意識はないのだろうか。
誰も彼を諌める人がいない店内に、機密情報がこだまする。私もすっかり会議に参加しているかのように、引き続き会話に聞き入る。ふと思った。この会社員、ひょっとして周囲に聞こえるように話しているのかもしれない。「俺って数千万円の仕事をしちゃってるんだぜ」的な。いや、勘ぐりすぎかと脳内自省。でもこのオンライン会議の情報漏洩について、思い当たる節がある人は多くないだろうか。実際に情報が漏れてしまって、企画ごと頓挫してしまった話を聞いた経験がある。彼の言動は故意なのか、それとも過失なのか。
