部外者にぺらぺらと
その後、立ち飲み屋でまた妙な周囲の声を立ち聞きしてしまった。制作会社でドラマを作っている30歳くらいの男性と、居合わせた会社員の女性の会話だった。
「××くんと仕事したんだけどさ、芸能人って言いながら結構普通なんだよね(笑)」
「そりゃ、そうだ」
「あの事務所、最近また行ったんだけどさあ、××くんがいて。全身、ブランドで固めてたんだよね。なんか笑っちゃったよ。あ、打ち合わせだったんだけど」
「やっぱ芸能人ってそうなんだー」
「あー、しくった」
「なにー?」
「早めに連絡が来たから××局の仕事受けちゃったんだけど、その後××局から打診があったのよ。××(ドラマの放送時間帯略名)で仕事しないかって! やっぱ××で仕事をしたほうが箔が付くしさ」
男性の「俺って業界人なんだけど」話は延々と続いていた。隣で聞いていた女性はアイドルファンらしく、彼にひたすらライブチケットをねだっていた。私に聞こえているのは明らかなのだが、気にする素振りはまったくない。むしろ前述のカフェでオンライン会議をしながら、社内情報をぶち撒けていた彼と同じ匂いがして、周囲に聞こえるようなボリュームだった。やはり二人とも「故意」か。
(この小僧、いい加減にしておけよ)
脳内の自分がそうつぶやいた。出版社で働いて独立をして20年以上、仕事をしているけれど、(立ち飲み屋の)男性のようにタレントの裏話や情報公開以前の事柄をペラペラと、部外者に話すのは気が知れない。もし私が一緒に仕事をしているスタッフだったら、強めに注意する。下請けの立場としては信用ガタ落ちで仕事の発注はなくなるだろう。危機管理力はこの小僧にないのだろうか。
(その××のドラマ、一部仕事やってんのよ〜、私。良かったねえ、もし一緒だったら即刻、テレビ局に今日の件は報告するから、あなたの会社の売り上げガタ落ちカタストロフィが完成するところでした〜)
おばさんの遠吠えを心で叫びながら、早々に店を出た。酒がまずくなった。
