『カケラ』著:湊かなえ

 

登場人物のなかで一番イヤな人は誰……?

美容整形をテーマにした本書は、読後に誰かと語り合いたくなる心理ミステリーだ。美容整形といってもフェイス系ではなく、「脂肪吸引」等のボディ系からアプローチしているのが著者らしい。誰もが思い当たるコンプレックス。その深層に潜む複雑怪奇な自意識のありようが抉り出され「あなたはどのタイプ?」と問いかけてくる。

物語は美容整形外科医の橘久乃(たちばなひさの)(サノちゃん)が、幼なじみから脂肪吸引の相談を受けるところからはじまる。カウンセリングをしているうち、小学校の同級生だった横網八重子(よこあみやえこ)の思い出話になる。彼女によれば、八重子の娘(吉良有羽(きらゆう))はドーナツがばらまかれている部屋で自殺していたという。娘は母手作りのドーナツが大好物で激太りしたらしい。

そしてサノちゃんは、自殺の真相を探るべく関係者たちを訪ね歩くという展開だ。サノちゃん相手に、関係者たちはカウンセリングを受けているような「私語り」をはじめ、やがて思いがけない本音を吐露するようになる。明らかになるのは、太っている少女の容姿に対する見下しや決めつけ、野次馬根性丸出しの偏見と好奇と悪意に満ちた目である。そしてまったく違うところにあった自殺の原因──。

強烈だったのは同級生「横網八重子」のネーミングセンスだ。ぱっと見「横網(ヨコアミ)」を「横綱(ヨコヅナ)」に間違えるような表記の仕方、名字がデブいじめにつながっていくエピソードにはぞくぞくさせられた。読後、「登場人物のなかで一番イヤな人は誰か」と話し合いたくなる。もしかしたら「横網八重子」のネーミングに嬉々としている自分かもしれない、というところにたどり着き、「イヤミス」を堪能することになるのだ。

『カケラ』
著◎湊かなえ
集英社 1500円