「……え、そうなんですか?」

 綾香は思わず聞き返した。

 自分が気になって仕方がないくまやしみが他人からはそれほど気にならない、というのが意外だったし、商品を売るためにいる美容部員が自社製品を強く押し出すのではなく、むしろ客の不安を和らげるような発言をしたのも意外だった。ITOさんは「はい」とあっさりとうなずく。

「恐らく、お客様ご自身は『ここにくまやしみがある』とはっきり分かっているので、お化粧後も特に気になってしまわれるのかなと」

「じゃあ、他の人にはそんなに目立って見えていないってことですか。考えすぎなんでしょうか……」

「いえ、ご本人様が気になるというのも、けっしてないがしろにできないお悩みなので――そうですね、お色はこちらかなと。それでは、左右で比べられるように、お顔の左側だけのせていきますね」

「お願いします」

 柔らかくひんやりとした感触を伝えるメイクブラシで、ITOさんは綾香の頬のしみにコンシーラーをのせた。周囲をパフで軽くはたいてなじませていく。じわりと明るさが広がるような、感じのいい商品だった。肌の色を見てプロに選んでもらえるのも安心感がある。

「あ、いい感じかも」

「よかったです。もしもまだ気になるようでしたら、さらにチークをのせるのもいいと思います」

「チークですか?」

「普段チークはつけますか?」

「いえ、あまり」

「少し色が入るとそちらに目線が誘導されるので、しみが気になりにくくなるかと」

「試してみてもいいですか?」

「もちろんです」

 ITOさんはローズカラーのチークを綾香の頬骨付近に軽くのせた。綾香は鏡を確認し、目を見張った。普段は鏡を覗くとついしみを探してしまうのに、頬にほんのり色が入っているだけで、たしかにそちらへ目が行く。品のいいローズカラーも、柔らかい印象で素敵だ。面白いな、と心がくつりと沸いた。気になるなら、別のものを見てやり過ごしてしまえばいいのか。