「たしかに、チークがあった方が気分がいいです」

「よかったです」

 続けてITOさんは、目の下はそもそも下まつげの影が落ちるので暗くなりやすく、普段よりワントーン明るめのコンシーラーを選ぶか、あるいはハイライトをのせて暗さを光で飛ばしてしまうのがおすすめです、と提案した。今日いきなり二種類のコンシーラーを購入するのは現実的でないように感じ、綾香は頬につけたのと同色のコンシーラーにハイライトをのせてください、と頼んだ。「はい」とITOさんはうなずき、丁寧にメイクブラシを動かす。

 そうしてメイクが施された左半分の顔は、仕事上がりにもかかわらず自分でも驚くほど元気で、楽しげに見えた。

 楽しい? そうだ、楽しかった。自分の体を通じて、知らない技術を体験する喜びがあった。デパートコスメの質が高いのはもちろんとして、美容を生業とするプロに自分の悩みをぶつけ、誠実に応じてもらえた安心感も大きい。綾香はコンシーラーの他、ITOさんがチークにもアイカラーにも使用していたローズ、オレンジ、パールの三色のパウダーハイライトが収納されたパレットも購入することにした。

 左右でちぐはぐにならないよう顔の右半分にも同じメイクをしてもらいながら、綾香は肩の力が抜けるのを感じた。

明日からは、目の下のくまと頬のしみについて、これまでよりずっと気楽に受け流すことができる。重たい悩みを一つ、体から下ろした気分だ。

 気が緩み、ふと心の深い部分から、これまで誰にも聞けなかった問いが浮かびあがった。

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