星一徹も復員兵だった

信田 私は1970年代初頭に精神科病院でアルコール依存症のグループセラピーに関わっていました。当時50代ぐらいだったアルコール依存症の男性たちの話を聞くと、3分の2ぐらいの方が満洲(現・中国東北部)で戦争を体験しています。

島田 かなり高い確率ですね。

信田 出征前は酒を飲めなかった人も多くいましたが、戦地で戦意高揚のため無理に飲まされる。飲めない酒を飲み、命からがら戦地から戻って、飲酒習慣だけが残った。

ただ、そのときは彼らが戦地でどんな体験をしたかという具体的な内容はあまり語られませんでした。当時は私も、戦争はアルコール問題の背景にあるエピソードのひとつ程度に捉えていたのです。

島田 日本では「戦争トラウマ」という概念自体がなかった時代ですから。

信田 私は90年代の半ばにカウンセリングセンターを作り、AC(アダルト・チルドレン)の女性たちのグループカウンセリングを始めました。そのとき伺った被虐待の体験談が凄まじかった。酒を飲んだ父親が妻や娘を殴る蹴る。竹刀で殴られた打撲痕やミミズ腫れ、火傷の痕が体中にある人や、性虐待も珍しくありませんでした。

島田 家族の機能不全や虐待経験によって生きづらさを抱えたACの存在に注目が集まったのですね。

信田 当時40代ぐらいの彼女たちの父親が、ほぼ全員、復員兵だったのです。私もカウンセリングの場で虐待の話は長年聞いてきましたが、この年代の女性たちは突出してひどい暴力を親から受けている。

その後、中村江里さんが2017年に書いた『戦争とトラウマ』という本を読んで、今まで断片的だったものが、ひとつに繋がっていく気がしました。多くの人が、多くの家族が、戦争で大きく運命を変えられてしまった。

島田 1970年前後に流行したマンガ『巨人の星』の主人公の父親は、子どもを殴ったりちゃぶ台をひっくり返したりと、今でいう虐待をしています。その星一徹も、実は復員兵という設定だったらしいですね。あの時代、社会全体に、そういう背景を持った父親がたくさんいました。