妻と子を支配することで死なずに生き延びた
信田 この問題を考えるうえで、ひとつ重要なのは戦争責任です。日本では政治家も社会も戦後処理の責任を果たさず、戦争体験のトラウマも手当てせず、すべて家庭に押し付けました。戦地から帰った男たちが心を病んだり、家の中で暴れたりする。でもそれは妻が夫をちゃんとケアしないせいだ、口答えするのが悪いと。
島田 重要なご指摘です。
信田 アメリカでも、75年にベトナム戦争が終わってからアルコールと薬物の依存症が激増しました。でもアメリカはPTSD(心的外傷後ストレス障害)を国家のお金で治療するという形で責任を取った。ところが戦後に民主化された日本では、戦地から帰った男たちを異物として、顧みませんでした。
島田 社会も彼らに対して手のひら返しをしたわけですね。せめて、「よくやった、よく帰ってきた」と受け入れられていたら。もちろん戦地での加害行為は肯定できませんが、兵士の気持ちを吐露する場、それを聞く場があれば、彼らの暴力が家族に向くことはなかったのかもしれません。
信田 暴力の効果として、つかの間の自己効力感(セルフ・エフィカシー)が得られる。力の弱い妻や子を支配することで、なんとか死なずに生き延びることができた部分もあったと思います。たくさんの兵士が亡くなったのに自分は名誉の戦死もせず生還してしまった、という罪悪感(サバイバーズ・ギルト)も心を蝕んだでしょうし。