「それ、傷つけた人間が言う台詞じゃないでしょ」

「……わかってる。わかってるけど私は娘を突き放す」

「なるほど。あえて自分が悪者になることで子供の成長を促す、ってことね。美しい親心だこと」

 嘲笑のニュアンスがはっきり感じとれた。だが、私は怯まなかった。

「確かにそう。でもね、距離を置くことでしか改善できない関係もある。共依存は特にね」

「なるほどなるほど。そうやって自分を正当化するわけ?」

 ちくりと胸が痛む。親を捨てることを責められても平気なのに、娘に関してはやはり辛い。

「ねえ、蘭は前にこんなふうに言ったよね。……あんたは男のことを本当には愛してない。母親であることに囚われて人を愛することができない、って。女の敵とまで言った。なのに、いざ娘を捨てようとしたら非難するの?」

「……別に非難してるわけじゃない。木綿子にそんな勇気があったんだ、って驚いてるだけ」

 返事がすこし遅れた。そのとき、ふいに理解した。

 蘭はどこまでいっても娘の立場なのだ。どれだけ真実の愛やら女性の立場を持ち出そうと、親に傷つけられた子供という視点が前提なのだ。

 だが、それを指摘すると蘭が激昂することは容易に想像できた。蘭にとって絶対に触れてもらいたくない傷なのだ。つまり、それほどまでに「親に傷つけられた子供」の苦しみは深い。

「そうね。自分でも驚いてる。ねえ、聞いて、蘭。私は父に傷つけられた。そして、父と離れることで回復を感じている。麻子も私と離れることでしか得られない回復があると思う」

「だーかーらー、それが言い訳でしょ」

「そうね。これが欲求不満の熟年主婦の恋愛よ。……どう、ネタになる?」

 しばらく黙って、それからつまらなそうに呟いたのだった。

「微妙」