60歳を過ぎた木綿子は父の介護と引きこもりの娘の世話に日々追われている。不幸ではないが、いろんなものを諦めてきた人生だった。けれど、ひょんなことから知り合った2歳年下の男と出逢う。二人は互いに惹かれていくが……。遠田潤子さんが描く、静謐で過激な大人の恋愛小説。ぜひお楽しみください。

 

 霧との交際を知った頃から、初音蘭からひんぱんに連絡が来るようになった。

 彼女にとって私は「おいしいネタ」のようで、霧とのことを根掘り葉掘り聞いてくる。最初はうっとうしいと思っていたが、最近ではそれを楽しめるようになってきた。蘭と話すことで自分の心を整理できる。少々意地悪な視点からの意見をされ、それに言い訳をする自分自身を冷静に観察できる機会が得られることに気付いたのだ。

「で、結局、木綿子は男と暮らすために親と子を捨てるわけね」

 蘭は正直だ。面白がっていることを隠さない。

「ま、そういうことになるかな」

「ずいぶん変わったね。余裕があるじゃないの」

「変わったよ。……親と離れられるってことがどれだけ幸せなのか、噛みしめてる。

「そりゃそうよね」

 蘭は単純だった。彼女も実の両親との確執を抱えていたことは知っている。だから「親を捨てる」ことに関しては諸手を挙げて賛成してくれた。

「で、娘も捨てるわけよね」

「捨てるんじゃない。麻子は親元から独立して一人暮らしをする。それだけのこと」

「普通の親子ならね。でもね、麻子ちゃんは子供時代、青春時代を親の犠牲になって過ごして、要らなくなったら放り出される。捨てられるのと一緒でしょ?」

「あの子はもう三十歳。たとえ過去になにがあったとしても、自分の傷を自分で癒やす方法を見つけなければいけないでしょ」