瀬良は一瞬立ち止まり、くすっと笑ってから母屋に向かった。しばらくして剣人を連れ、ビールを三本持って戻ってきた。すぐ近くで作っているクラフトビール万里春醸造だ。

「霧さん、話ってなんなん」

 剣人は不思議そうな顔だ。

「まあまあ、まずは飲みましょ。ぬるくなるやん」

 瀬良が栓を抜いてみなにビールを手渡した。一口飲むと、あまりの美味しさに半分ほど飲み干してしまった。その勢いのまま言った。

「俺は山際さんと結婚することにした」

「え?」

 剣人が大きな声を上げた。その横で瀬良はニヤニヤしている。

「結婚って……マジで?」

「ああ」

「いつ?」

「まだはっきりとはわからない。お互いにいろいろ身辺整理をしてからな。式は挙げない。ただ、この近所に新居を借りて二人で住もうと思う。蔵へは通うつもりだ」

「もうそこまで決めてるんか」

 剣人は呆けたような表情だ。

「山際さんと結婚して籍も入れる。その際、蔵の権利はすべておまえに相続させるように手続きをする。おまえを五代目にするという公正証書をつくるつもりだ」

「五代目って……そんなことまで……」

「とっくに決めてた。この機会に半分引退したいんだ。歳だしな」

「歳って、まだ六十前やろ? そんなんまだまだ……」

 そこでハッとした表情になり口ごもった。

「病気のことだってある。楽しめるうちに楽しみたいんだ。新婚生活をな」

 うん、と剣人はうなずいたが、動揺を隠しきれないようだ。横から瀬良が明るく言った。