知的機能は衰えても、情緒機能は最後まで残る
認知症になると、記憶力や認識能力(知的機能)は低下しますが、感情や自尊心・プライド(情緒機能)は最後まで残ります。それは、ダメージを受ける脳の部位の違いと、「感情残像の法則」によります。
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症で最初に萎縮が始まるのは、記憶を司る「海馬」や、言語や思考、計画を司る「大脳皮質」です。そのため、新しい記憶が定着しない、場所や時間、人の認識ができないなどの弊害が起こります。
一方で、脳の深い部分にある、感情や本能を司る「扁桃体」など「大脳辺縁系」は、ダメージを受けにくいため、喜怒哀楽、恐怖、恥ずかしさなどの感情や、「自分らしさ」に関連する自尊心やプライドなどは、最後まで残ります。
そのため、プライドを傷つけるような態度や言動に敏感に反応して怒ったり悲しんだり、「できない」ことや失敗があると落ち込んだり、あるいはその失敗などを認めようとせず隠したり、頑固に拒否反応を示して自己防衛しようとします。
また、「自分がどうなっているのか、わけがわからない」といった恐怖感や、思いどおりにいかない、うまくできないもどかしさからの怒りや不安感情が爆発することもあります。さらに、「感情残像の法則」によって、「何を言われたか・されたか」などの事実は忘れても、そのときの喜怒哀楽の感情は残ります。とりわけ怒りや悲しみなどの負の感情は「イヤな感覚、不快さ」としていつまでも残り、相手に対する不信感などにつながります。
このように、認知機能が低下しても、「自分らしくありたい」「社会と結びついていたい」という欲求は最後まで残ります。また、愛情をかけられたり尊重されたりしたときの安心感や嬉しさ、逆に、自尊心を傷つけられた悲しさや怒りも忘れることなく残ります。
認知症の人とのコミュニケーションには、こうしたことを踏まえたさまざまな配慮や工夫が必要で、それが認知症ケアの効果を左右することになります。