介護施設の高齢者も夏は旅行に

山口:え、ちょっと待って。施設に入っているお年寄りも、サマーハウスに行っちゃうの?

長谷川:行きますよ。例えば、ある入所者さんは2週間、森にあるサマーハウスに滞在します。でも、サマーハウスって段差が多くて、歩行器を使うお年寄りには危険な場所でもあるんです。

森や湖畔で休暇を過ごす人も多い(写真:『認知症でも私のことは私が決める-日本の不自由とスウェーデンの自由』より)

宮本:日本だったら「危ないから止めましょう」って言われますね。

長谷川:そうですよね。こちらでは、春からリハビリチームと看護師が一緒になって、その人がサマーハウスで安全に過ごせるように訓練を始めます。通常の支援を超えた取り組みですが、職員は「これこそが、本人が人生を楽しむために大切な支援だ」と、苦にしません。

山口:なるほどなぁ。「安全第一」じゃなくて「楽しみ第一」なんだ。

宮本:日本の介護は質が高く、費用も抑えられていますが、スウェーデンと比べると、施設での暮らしは自由とは言えません。お年寄りの一人旅なんて、まず認められません。せいぜい職員に付き添われて、近所を散歩するくらいです。

長谷川:どうしてそんなに慎重なんですか?

宮本:日本では何より「安全」が優先されるからです。もし何かあったら、施設の責任が厳しく問われます。さらに、日本では、旅行のような「楽しみ」に公的なお金を使うという考え方はありません。年金も、生活するだけで精一杯という人が多いです。

長谷川:80代のオスカル(仮名)は、軽度の認知症がありますが、毎年夏になると「移動支援タクシー」を使って、300キロも離れた孫のところへ一人で会いに行きます。

宮本:300キロを一人で! それはすごい。でも、タクシー代もバカになりませんよね?

長谷川:それが、国の補助があってとても安いんです。100キロまでなら約1600円、1500キロを超える場合でも最大で1万1000円程度の本人負担で済みます。スウェーデンはタクシー代がすごく高いので、元気な人はあまり使いません。そのため、国は公共交通機関の利用が難しい人、例えば認知症の人などにタクシー代を補助します。このことで、タクシー業界を助けている一面もありますが。ただ、夏の間は困ったことも起きます。医療機関の職員もみんな休暇を取りますから、体制がガクンと縮小するんです。