夏のケガは命取り?
山口:えっ、病院も休んじゃうの?
長谷川:外来や外科の手術を計画的に減らし、緊急事態に備える程度にします。内科病棟では、看護学生が介護士としてアルバイトで入り、ベテラン職員は交代で休みます。
宮本:それは、救急車で運ばれると大変そうですね……。
長谷川:ええ。夏のケガは命取りというくらいの気持ちでいます。救急室も規模が縮小されるので、命に関わらなければ長時間待たされるのが当たり前。特にお年寄りにとっては、とてもつらい場所なんです。
山口:それはきついね。
長谷川:2024年の夏にはウプサラ市内で唯一の内科、外科の救急室がある大学病院から「施設のお年寄りは、できるだけ救急室に来させないでください」という通達が出たほどです。そして、「できるだけ各施設で看護師や家庭医が対応すること。あるいは老年疾患専門当直医へ電話で相談するように」とありました。
宮本:それに対して市民から文句は出ないんですか? 「もっと医者を増やせ!」とか。
長谷川:そこが面白いところで、スウェーデン社会には「夏季休暇はみんなの権利だから、その間、医療が受けにくいのは仕方ない」という合意があるんです。人を雇えば税金の投入が増えるから「受診しやすくしなくていい」と考えるんですね。
※本稿は、『認知症でも私のことは私が決める-日本の不自由とスウェーデンの自由』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
日本では介護のために離職する人が年間10万人に上るが、スウェーデンでは家族に介護をする義務はない。
両国の違いはどこからくるのか。そして、認知症の人と家族の幸せとは……。
85~89歳の3人に1人、90歳以上の2人に1人が認知症になる時代に、認知症の医療と介護のあり方を考える。
出典=『認知症でも私のことは私が決める-日本の不自由とスウェーデンの自由』(著:宮本礼子、長谷川佑子、山口晴保/中央公論新社)
宮本礼子
介護老人保健施設アートヒルズ医師
1954年生まれ、東京都出身。介護老人保健施設アートヒルズ医師。日本尊厳死協会理事。2006年から認知症診療に従事し、江別すずらん病院認知症疾患医療センター長を経て現職。精神保健指定医。日本老年精神医学会・日本認知症学会専門医・指導医。「高齢者の終末期医療を考える会」代表(2012~23年)。「レビー小体型認知症サポートネットワーク札幌」顧問医師(2012~23年)。共著書『欧米に寝たきり老人はいない(中央公論新社、2015)』『認知症を堂々と生きる(同2018)』『欧米に寝たきり老人はいない 増補版(同2021)』。読売新聞ヨミドクター共著連載記事「今こそ考えよう高齢者の終末期医療(2012)」「高齢者の終末期医療はよくなったのか(2023)」「日本とこんなに違うスウェーデンの高齢者医療・介護(2024〜25)」。
長谷川佑子
スウェーデン王妃認定認知症専門看護師
1980年、埼玉県生まれ。兵庫県立看護大学を卒業後、虎の門病院にて勤務。2008年にスウェーデンへ移住し、カロリンスカ大学にてEU看護師免許を取得。ウプサラ大学アカデミスカ病院の老年急性期病棟で勤務の一方、スウェーデン王妃認定認知症専門看護師(シルヴィアナース)、高齢者ケア専門看護師となる。現在は高齢者入居施設での認知症ケアに携わるかたわら、ブレーキンゲ工科大学修士課程にて地域専門看護師を受講。日本の認知症ケア専門士研修や大学等での講演、読売新聞ヨミドクターでの連載(2024〜25)を通じ、現地の看護・介護の最前線や、海外での子育て事情を発信している。
山口晴保
群馬大学名誉教授
1952年、群馬県高崎市生まれ。1976年、群馬大学医学部卒業後、大学院で神経病理学を学んだ(医学博士)。1980年、群馬大神経内科に入局。1986年、群馬大医療短大理学療法学科に移り、理学療法士・作業療法士の教育に従事。脳活性化リハビリテーション5原則を提唱。米ハーバード大に留学。蘭ライデン大学客員教授を経験。認知症専門医に。2016年、群馬大学大学院保健学研究科教授を辞し、認知症介護研究・研修東京センター長として認知症ケアを研究し、「認知症ポジティブ」を提唱。現在は常勤職を辞し、余生を楽しんでいる。日本認知症学会名誉会員。著書に『認知症ポジティブ(2019)』『認知症予防・第3版(2020)』(いずれも協同医書出版社)など。