めでたい「いのち」

「橋田さん、あなたは死にたいと言うけど、それは目に見える、限りある肉体の命(いのち)だね。いのちはもう一つあるのを知ってる?」

私は橋田さんに問いかけました。橋田さんが首を横に振ると、私は四字熟語を書いて、次のように伝えました。

(写真提供:Photo AC)

「臨命終時(りんみょうじゅじ)、臨壽終時(りんじゅじゅじ)(※1)の壽(いのち)だよ。あなたの名前にある。あなたの肉体は死んでも、壽賀子の壽といういのちは死なない。それは血も肉もない、重さも量もない空(くう)である無量の壽(いのち)なのだ。無量だから滅びない。あなたの作品『おしん』『春日局』『渡る世間は鬼ばかり』は将来に残る。苦しみながら生き抜いたおしんに込めたあなたの心は永遠に生き続ける。心とはあなたのいのち、あなたの哲学だ。壽賀子の壽に連ねた賀はめでたい。『めでたい壽(いのち)』、そう名づけた親は、死にたいと言う娘をどう思うだろう?」

橋田さんは言いました。

「小笠原先生、帰命無量壽(きみょうむりょうじゅ)如来(※2)の壽(じゅ)ですか? 92年間、自分の名前の由来を知りませんでした。私の主治医になってください」

以来、橋田さんは安楽死を希望することなく、生きがいを持ち、病を患い、95歳で熱海の自宅で旅立たれました。