日下部佳織(くさかべかおり)、とチケットの送り主の名前が小さなあぶくのように意識へ浮かぶ。日下部佳織――という名前は、吉晴の中で、目の前にいる三島鈴と同じ記憶の領域に入っていた。
「三島って……日下部と同じ代だよね? よく一緒にいたような」
「日下部佳織ちゃんですか? かおりんなら仲良かったです」
「少し前に日下部から、彼女が企画した謎解きイベントのチケットが郵送されてきたんだ。先生と娘さんでぜひって手紙がついてたんだけど、僕の娘、いま北海道にいるんだよね。それで、今日の帰りに僕だけイベントに顔を出そうかなって思ってたんだけど……三島、興味ある? もしチケット使いたかったら……あ、でもだめか、もしかしてこれから出勤?」
吉晴は三島のスーツに目を落とす。三島は表情を輝かせ、「行きたいです!」と声を弾ませた。
「今日は休みなんですけど、家で見るつもりだった資料を忘れて、午前中にちょっと職場に取りに行ってました。でも、午後は大丈夫です。空いてます」
「あ、そう。じゃあ一緒に行こうか。日下部もイベント会場にいるって手紙に書いてあったから、きっと会えると思うよ」
「はい! ぜひご一緒させてください」
チケットによると、謎解きイベントは大学から電車で十分ほどの距離にある百貨店で開催されていた。ゼミが終わる時間を考慮して、吉晴と三島は十八時半に百貨店の前で待ち合わせることにした。
「加々見先生の娘さん、北海道にいらっしゃるんですか?」
「そうそう。環境調査の仕事してるの。お役所から発注受けて水質検査したり、生き物の生態調査したり」
「へええ、かっこいい。世の中いろいろな仕事がありますね」
「ははは。それじゃ、またあとで」
「はい」
