高校1年の晩秋のこと。学校から駅に向かって続く坂道。夕焼け空。踏切の手前に、2人の女性がいた。ずいぶん薄着で寒そうな格好だなあ。ふと、私はあの人たちに近づいてはならない、そう感じた。説明できない胸騒ぎ。女性の1人が、私の友人に声をかけた。
「XXりかちゃんと違いますか」
友人は驚いて、横にいる私を見た。引きつった顔で「行こ!」と逃げるように歩き出した私を見て、友人は「違います」とだけ言い、慌てて追いかけてきた。背中ごしに「もう少し待ってみよう。まだ学校に残っているのかもしれないし」と話す声が小さく聞こえる。
電車に乗ってから、私は激しく泣いた。2人のどちらかが、私の母なのだ。事情を知らない友人は、自分まで泣き出しそうな声で「がんばりや……」と手を握ってくれた。
翌日の昼休み、職員室に電話があった。
「りかちゃん、昨日学校に行ったのよ。会えなかったけれど」
会いましたよ。3人組に声をかけたでしょう。あのなかの1人が私です、そう教えてあげたかった。しかしあと何回、こういうことが続くのだろう。
「もうやめてください。もう二度と電話しないでください」
私の口から針が出た。母を拒絶する針。それきり、母から電話がかかってくることはなくなった。やがて私は高校を出て就職した。