芥川龍之介からのラブレター
もっと大人になってから、そうですね、文学者としては、わたしはそれほど芥川龍之介を尊敬したわけではないのよ。
文学少女のその頃も……売れっ子だから憧れたのかもしれない。とっても男前でしょう。痩せて、蒼白くて……そう、わたしはきっと、あの男前に惚れぼれしたんでしょう。
ラブレターを書いたことがあるんですって? 芥川さんが、わたしに? まさか……。
そういう“資料”があるんですか。いいえ、憶えていませんよ。わたしが拙い小説を見てもらいに持って行った……ということはあるかもしれないけれど……。その返事の手紙、ほんとうに来たのかしら。
わたしが今東光と、本郷の町を散歩していたときに――八百屋の店先に、葱が売っていたの。二銭と書いてあった。あんまり安いんで、わたしが思わず、買ってしまったの。
それで今東光はすっかり興ざめだったって……その話を、芥川さんにしたらしいのよ。それをもとに芥川さんが『葱』という短篇を書いた……。
手紙のやりとりがあったとしたら、それもその頃のことでしょうか。