ほんとうは、わたしも泣いた

いままでは、失恋しても泣かなかった、とか、追っかけたってしようがない、なんて書いたり言ったりしましたけどね、――ほんとうは、わたしも泣いた。――もうどんどんボロも出しちゃうことにしたの。

失恋したら、綺麗な着物を着て表へ出れば、男は女の数ほどいるから構ったことないよ、って言ったこともあります。でも人の見ない所ではよよと……。

『宇野千代 ちょっと自伝』(著:宇野千代、文:三宅菊子/マガジンハウス)

一方的につっ走って、その恋愛が実らなかったことも、しょっちゅうありました。度たびありましたよ、もう失恋ばっかり。

そう書いたら、毎日新聞の人が笑ったよ。前に瀬戸内(晴美)さんと対談したときには、失恋しても泣かなかったなんて、嘘を言ったの。

世間の人はわたしが、狙った男は必ず手に入れる、恋愛の達人のように思っているでしょう。そう思わせるような威張ったことを、人には言ったのよ、昔は。

妬きもちを焼いて泣いたこともあります。あなた、北原(武夫)が描いたわたしのスケッチを見たことがあるでしょう?