俺たちは財布を出したが飲んだ後なのでほとんどない。怒った男たちが本気で俺たちを殴って蹴った。男たちがバッグを漁っている隙を突いて、俺たちは逃げ出した。普段ならこんな奴らに追いつかれるわけがない。フットワークには自信がある。公園を出ようとしたら、原チャリで先回りしているやつがいた。こっちに突っ込んできて追い回された。
そこへパトカーのサイレンの音が聞こえた。美雨が通報してくれたのだ。連中は逃げようとして慌てて向きを変えた。だが、焦った原チャリの運転手がハンドル操作を誤り、雨彦に突っ込んだ。雨彦はバイクと一緒に公園の階段を転がり落ちた。
「雨彦」
俺が駆け寄ると、雨彦はバイクの下敷きになって動かなかった。
雨彦はすぐに病院に運ばれ手当てを受けた。命に別状はなかったが、頭の骨にヒビが入り、腕が折れていた。そして、リハビリをした膝は使い物にならなくなって、一生杖が必要だと言われた。
それを聞いたとき、雨彦は声を上げて泣いた。俺はあいつが泣くのをはじめて見た。慰めることができなかった。どんな言葉も無意味だと知っていたからだ。
俺は殴られたときに鼓膜が破れて、再生手術を受けた。成功率の高い簡単な手術だったので問題はなく終わった。
翌日、俺は病室に呼ばれた。
「耳、手術したらしいな。大丈夫か?」
「ああ。もう問題ない」
「そうか、よかったな」
雨彦はまず俺のことを気遣ってくれた。もうこれ以上泣き言を言いたくないのがわかったので、俺もなんでもないように話した。
「思ったより元気そうだ」
「ああ、しばらくまたリハビリだ。美雨が張り切ってるよ。手伝う、って」
「俺も手伝うよ。一緒に筋トレやろう」
わざとらしくなく、ごく自然に言ったつもりなのに雨彦は返事をしなかった。俺は胸にひやりとしたものを感じた。
「霧。霧雨コンビは解消だ。おまえ、さっさと新しい相手を見つけろ。選手寿命がもったいない。美雨がせっかく取った資格も無駄になる」
雨彦の気持ちはよくわかった。だから、イエスと言った。
「……ああ。おまえより強い奴と組んで今度こそ世界に行くよ。専属トレーナーは美雨だ」
「楽しみにしてる」
そう言って、雨彦は本当に綺麗な青空のように笑った。
