空からけたたましい鳴き声がした。白鳥ではなくカラスが三羽、やかましく鳴きながら飛んでいた。

 今から思えば、俺たちは勇者パーティのようなものだった。

 雨彦が勇者。俺が勇者を補助する魔法使い。そして、美雨が回復役の僧侶。三人はいつも一緒だった。

 三人が揃っているときはよかった。だが、雨彦がいなくなるとあっという間にバランスが崩れた。俺と美雨は同時に気付いた。雨彦がいなければ、自分たちは頭のない蛇のようなもので、どこへ進んでいいのかわからない。同じところをぐるぐる回っているだけだ、と。

 それでも残った魔法使いは僧侶を守る必要があった。俺と美雨は結婚し、新たなパーティを作ろうとした。二人とも懸命に努力を続けたのだ。

 その頃からすこしずつ片耳の聞こえが悪くなっていった。手術にはなんの問題もなかったし、検査でも異常は見つからなかった。医者が言うには「精神的なストレス」らしかった。そのまま聴力が回復することはなかった。

 やがて息子が生まれた。俺も美雨もどれだけ嬉しかったか。雨彦が死んで以来、はじめて心の底から笑うことができた。

 赤ん坊は美雨の強い願いで晴彦と名付けられた。

「もう雨はいや。この子は晴れ。ずっと晴れ」

「そうだな。晴れ男だ。二度と雨なんか降らせない」

「ねえ、この子が大きくなったら親子ダブルスが組めるんじゃない?」

「それもいいな。親子大会もあるからな」

「霧晴れコンビか。私はトレーナー兼マネージャー」

 美雨は晴彦を抱き上げ、まるで表彰台に上がったときのような笑顔を見せた。

 俺は晴彦が大きくなってラケットを握るところを想像した。俺が教えるんだ。ラケットの握り方、シャトルの投げ方、サーブ、スマッシュの打ち方――。

 耳はよくならないままだったので、補聴器を使うことにした。晴彦の声を聞き漏らしたくない。二度と「気付かなかった」と言うのはごめんだった。

 俺も美雨も、晴彦が新たな勇者になってくれるものだと信じた。だが、晴彦は一歳で死んだ。勇者パーティは再び呆気なく崩壊した。

 

 霧が話していたのはほんの十数分だ。でも、そのわずかな間に霧も私もひどく歳を取ったように感じた。夏の夜のなまぬるい風が吹いたが、干涸びたミイラのような身体はそれだけでバラバラに消し飛んでしまいそうな気がした。

「今でも夢を見る。あのとき眠らなければ。あのとき飲まなければ。飲むにしても、一杯でやめておけば。もっと早く補聴器を着けていれば――。ずっとずっと考え続けている」