奄美大島の食文化に接して

私は中年になって思いがけなく結婚することになった。結婚も思いがけなかったが、全く未知の食文化に接することになろうとは、思いもかけぬことであった。

夫は奄美大島の出身だったので、結婚したときから私は、豚足や豚の耳につき合わされ、これが驚倒するほど美味なのだ。

『食べるたのしみ』(著:田辺聖子/中央公論新社)

モノがおいしい、と痛感するには、まずおどろきがなくてはいけない。おどろくには、ある程度の若さも要るのだ。その意味ではいい時期にめぐりあった美味かもしれない。

結婚して間なしに、二階にいる義母が、大鍋を抱えて、えっちらおっちらと下りてきた。

彼女は私に、この料理はとてもあなたの口にはあわないと思うけれど、ただ、息子が大好物なので作った、あなたはおいやだったら食べなくてもよい、でももし食べてみて気に入れば、また作ってあげる、というようなことをいった。とても遠慮ぶかい人で、そういいつつ、恥ずかしそうに着物の袂で鍋をかくしているのだった。