暗殺ではなく「地誌作り」が本職?
では、ドラマのように工作員が海外で暗殺や破壊工作を繰り広げているかといえば、そのような証拠は存在しない。
同書で関係者証言として語られる実態は、むしろ極めて地味なものだ。具体的には、身分を偽装して海外へ渡り、滑走路の長さや港湾の水深、橋梁(きょうりょう)の耐荷重、道路網の状況などを調査する「地誌作り」が活動の中心だったという。
有事の際、自衛隊や同盟国の部隊がどこに展開できるのか、どの港に艦船を入れられるのか、どの橋を戦車が通過できるのか。そうした基礎データを蓄積することは、軍事計画の土台となる重要任務だったのだ。
ただし、衛星画像やオープンソース情報が飛躍的に発達し、こうした調査の一部は代替できるようになった。とはいえ、現地でしか得られない情報の価値まで失われたわけではない。
軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏も、冷戦期に小規模な非公然部隊が存在した可能性は認める一方、隊員が身分を偽装して海外へ派遣された事実は確認できず、予算規模や法的制約を考えれば、ドラマに描かれるような大規模な秘密工作組織を維持するのは現実的ではないと指摘する。
また、黒井氏によれば、一部のOBが個人的に行なった情報収集活動の武勇伝が、周囲に語り継がれるなかで過大に膨らみ、「別班伝説」として独り歩きした側面もあるという。
現実のインテリジェンスは、派手なアクションよりも、地味で膨大な情報収集の積み重ねによって支えられているのである。
別班の任務は、有事に備えた「地道な現地調査」だったという イラスト:芦刈将
