井上イズムを感じる
脚本を書いているのは長田育恵氏(49)。NHK連続テレビ小説『らんまん』(2023年度前期)などを手掛けた人だが、「小説家で劇作家の井上ひさしさんの弟子」と紹介したほうが、作風を理解しやすいだろう。
井上さんは、難解な社会問題を笑いに包んで伝えることを得意とした。長田氏による今回の作品も、シビアな教育問題にファンタジーと笑いにくるんで描いている。井上イズムを強く感じさせる。
いろはは教壇に立つが、カタカナ表記の児童の名前を間違えてしまい、「すまねぇ。カタカナ苦手なんだ」と謝る。女子児童が「ふざけないでください。カタカナは漢字から生まれたんです」と抗議した。児童たちは、彩葉の中身がいろはであることを知らない。
カタカナは平安時代初期、9世紀ごろに成立したとされる。江戸時代中期には既に使われていたが、学術書や医学書など用途が限られていたため、いろはが苦手でも不思議ではない。
直後、いろはは「ひらがなはどうして生まれたんだろうな」と児童たちに問い掛ける。誰も答えられなかったため、みんなで図書館へ走り、自分たちで調べる。いろははその様子を見て、満面の笑みを浮かべた。
児童を管理するタイプの3年2組担任・阿久津美保(大西礼芳)は、渋い表情を見せる。若手教師で3年1組を担当する真島玲二(山中柔太朗)は、いろはに「どこのサイトで見つけた教育法ですか?」と尋ねた。ありそうな会話だ。教師に限らず、ネットに頼り切る人々への皮肉に違いない。
井上さんは日本語にこだわり続けた人で、『日本語教室』(新潮社)など、日本語に関する数多くの著書を残した。ひらがなとカタカナについても書いている。図書館での自主学習の場面からも、井上イズムを感じさせた。奥行きのある脚本だ。
いろはに一ノ瀬は惹かれ始めている。しかし、いろはがいつまで現代にいるのかは分からない。
しかし、手掛かりは示された。いろはは、彩葉が自死を図ったことを知ったうえで、こう言った。
「こいつが生きてぇって思えば、俺は弾き飛ばされるんじゃねぇか」
上白石の演技と長田氏の脚本、見逃せない。
(高堀冬彦)
