演劇の話はママ友とはできないけれど

練習の時間や場所の確保、作品の読み込み、公演会場の選定、演出、集客の方法など、作業は山積み。劇団で経験を積んでいた新井さんの助けなしには、どれも進んでいかなかった。ユキさんの目の前で次々とアイデアを出す彼の姿に、高校時代のリーダー的な姿が重なったという。

「ふだんの連絡はもっぱらLINE。LINEの内容も会って話す内容も演劇の話だけですね。近所の喫茶店で夢中になって話して、ぱっと短時間で解散。でも、私にとっては大事な時間なんです。子どもを介してママ友もいっぱいいますが、演劇の話なんてとてもできません。言えば引かれてしまう気がして……。仕事をしている人も多いのに、女性って、なんで会うと家族の話ばかりになってしまうんだろう」

一番頼もしく思ったのが、主要メンバーのひとりが演出上の問題でほかのメンバーと対立し、ユニットをやめると言い出したときだ。新井さんは粘り強く何度も話し合い、メンバー全員で舞台を作り上げようと熱く説いて、思いとどまらせた。

「私の想いを形にするためなら全力でサポートしたい、と彼が言ってくれる。私にとって朗読ユニットの活動が何よりも大切なことを、一番理解してくれているんです」

朗読劇は3月に本番を迎えるはずだったが、コロナ禍で観客を入れることはかなわなかった。出演者それぞれの身内などを招待した小規模での開催となり、ユキさんも夫と娘の前で朗読を披露。そこで初めて新井さんのことも紹介した。

夢は半分だけかなった。いつかは本公演を、という願いを新井さんと共有している。
「世の中は必ず落ち着くから、2回でも3回でも公演をしよう、とふたりで話しています」


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