ますみさんは「羅針盤」だという笠井さん。支えは大きかったそう(撮影:石川正勝)

「女性は強いんだ」と改めて思った

 これからは自分らしい仕事を、丁寧にやってほしい。その姿を闘病中の方たちが見て、「ああいうふうに自分も仕事に戻れる」と希望が持てるような、そんな存在になってほしいと思っています。

 治療の副作用も激しかったし、かなり壮絶な経験もした。その体験を通して得たことを、多くの人たちに還元する活動をしたいと強く考えるようになったんだ。さっそく、がん情報サイト「オンコロ」に声をかけていただき、専門家に質問をする動画づくりに参加しているのも、そうした考えがあるから。

 自分が病気を経験したからこそ、当事者として聞けること、話せることもあるでしょうしね。

 たとえば副作用。本を読むと、抗がん剤の副作用について実に多岐にわたって書かれている。でも人によって、どんな副作用が出るのかまったく違う。僕の場合、6回抗がん剤を投与したので、指の爪に6本横筋が入っていますが、みんながそうなるわけではない。なかには黒くなって爪が落ちる人もいるという。

僕はブログで闘病の様子を発信してきたけれど、「こういう症状が起きました」と書くと、「私もそうでした」と返してくださる方がいる。当事者同士での情報のやりとりは、すごくありがくて、逆に本やネットで調べすぎると、不安が増すこともあるんだよね。自分の身に起きることは限られているので、そのつど考えたり対処したほうがいいのかなというのが、実際に治療を受けてみての実感です。

 病気に関する仕事ももちろん大事だけど、あなたは映画に関してものすごく知識と愛があるから、映画関係のお仕事をもっともっと極めてほしい。

 それは僕も望むところ。新型コロナウイルスの影響で、リモートでの働き方が一般的になったことも、足し算の縁のひとつかな。僕はまだ自宅療養中でなかなか外に出られないけれど、リモートのおかげで仕事ができる。新型コロナウイルスで多くの人がつらい思いをしているけれど、これをきっかけに病気の人や障害がある人、心に傷がある人などにとっても働きやすい環境が生まれるのではないかなと期待しています。

 私は夫の病気を通して、「女性は強い」と改めて思いました。私は弱い人間なのですが、いざとなったら「私がしっかりしなければ」と底力がわいた。でも物理的なことには限界がありますから、入院する時も、「私が毎日洗濯するのは大変なので、パジャマは病院で借りてね」とお願いしました。介護や看護で疲れている方は、物理的な負担で減らせるものは減らし周囲に助けを求めてもいい。そして「大丈夫、私は女だから強い」と自分を励ましてほしいです。

 そろそろお酒を解禁してほしいな。お医者さんはいいと言ってるのに、ますみも子どもたちも「飲んじゃダメ」。

 お酒は、もうちょっと心がちゃんとしてからね。

 心がちゃんと、って?(笑)

 元気になるとすぐ飛ばしたくなるのだろうけど、そこをうまくコントロールできないとまた体を壊すと思う。だからお酒は、もう少し心と体のバランスが取れてからのほうがいいと思います!

 ハイ。羅針盤には従います!

*この対談は6月30日にリモートで行いました