あんた悪い人じゃないのはわかるけど

ムツゴロウさんは、玄関先まで出てきてくださった。私たちは、20畳はあるだろう広いリビングに通され、大きな犬が出迎えてくれた。

私は、珍しくものすごく緊張した。

ムツゴロウさんの真ん前の木の椅子に座り、犬に対する長年の愛情についてお聞きした。お嬢さん手作りのチーズケーキは驚きの美味しさで、大きな犬もずっと食べたそうにしていたが絶対にあげなかった。ムツゴロウさんは犬に自分のチーズケーキをだいぶ食べられていた。可愛くてたまらないというように目を細くして犬を見ていたから、私も真似て目を細めてみたりした。

さあ、そろそろさようなら、となった頃、勇気を出し切り出した。

「ムツゴロウさん、お願いがあるんですが」
「はいはい」
「ムツゴロウ、という名前を、襲名したいんです! 令和のムツゴロウ、とにかく私を2代目にしていただけませんか?」
「はい?」
「私が令和のムツゴロウです」
「どういうこと?」
「弟子にしてください!」
「困ったなー」
「なんとか!」
「あんた悪い人じゃないのはわかるけど、困ったなー」

それからムツゴロウさんは、動物の世界の奥の深さ、いかに勉強されてきたか、そしてその勉強は今も続いているのだよ、という話を丁寧にしてくださった。

「まず、ラブラドールはなぜラブラドールか知ってるかい?」と聞かれて、「え、それ、まず聞く質問なの?」となって、うなだれるほかなかった。そして、襲名できないままいよいよ本当にさよならになった。

「帰り、気をつけて」
「またきます!」
「またくるの?」
「ありがとうございました!」

私と友人は、黙って車を走らせ、地球が丸くみえる展望台にいき、しばし動物を、人生を、今日の日を、思った。この日のことを私は決して忘れない。

ところで殺処分とは、どのように行われているか。「安楽死させているから苦しみはない」という話を耳にする。しかし、動物たちは理解している。扉の向こうに恐怖があることを。

想像してみてほしいのです。

その扉の前にいるのが、うちの動物だったら。うちの子どもだったら。親だったら。

動物のことを、愛をもって考えている方たちは多い。これからますます増えると思う。そんな方たちが、チカラを合わせたら、とてつもない大きなパワーになるはずです。

私は、動物を愛する人と、動物を愛する人の接着剤になりたい。すべての動物が笑顔になれる世の中にしていこう。

「動物に癒されるよりも癒せる人間に」

令和のムツゴロウ(仮)
青木さやか

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