大竹 一番強く思ったのは、一般に理解されているアダム・スミスの主張と、本人が書いていることはまったく違うということです。多くの人々のアダム・スミスについての理解は、だいたい高校教科書の知識だと思います。そこにはたしかにアダム・スミスは重商主義を批判したと書いてあります。さらに、「私利私欲を追求する個人や企業の自由な経済活動は社会の秩序に反するどころか、かえって神の『見えざる手』に導かれて公共の利益を促進」する。

また、「経済に対する国家の介入は自由競争を制限し、市場の働きを損ねる。国家(主権者)が配慮すべき義務は国防、司法制度、公共事業と公共施設の配置の三つに限られるべきだというのが彼の主張であった」。これらは産業資本家の主張を代弁するもので、企業にとって有益なこととして扱われていたと説明があり、自由放任の結果、労働者が困窮し、独占が生じて資本主義が問題を起こしたと書かれています。けれど、『国富論』を読み直すと全然違うんです。

出口 アダム・スミスは独占に対して激しく批判していますね。フェアな取引をやらなければいけないということをものすごく強調している。

大竹 そうなんです。アダム・スミスが問題にしたのは、まさに独占があちこちで起こっていること、それから、労働者は団結できないので買い手独占が起こって賃金が最低限に抑えられているということです。

「独占価格は、どんな場合にも、(売り手が)獲得できる最高の価格である。」(第一篇第七章)と書いてあるとおり、企業はすぐに独占し、市場が自然な自由競争から離れてしまう。さらに企業が独占できるように国家に働きかけ、国がそれに応じることで独占の問題が深刻化すると指摘している。企業にとっていちばん都合がいいのは独占ですが、より自由な競争になるようにすべきで、企業が独占できるようにしたいと言っても国は頼みを聞いていてはいけないというのが本書の趣旨です。そこは大きく誤解されていると思いました。

それから自由競争が激化したために労働者が困窮したというストーリーも全く違います。アダム・スミスは、労働者はなかなか団結できないものだ、むしろ企業側が買い手独占になって賃金を買い叩いているのが普通だと言っている。当時は労働組合もなかったので、労働者が団結して企業に賃上げを要求するとすごく珍しかったからすぐニュースになった。企業側が談合しているのがあまりニュースにならないのは当たり前過ぎるからだという話です。

出口 今もほとんど変わっていませんね。

大竹 もしアダム・スミスが現代人の『国富論』の理解や教科書の説明を知ったら、怒るんじゃないでしょうか。

出口 僕もそう思います。

第2回「社会システムは、悪用する人を相手に作ってはならない」はこちら

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