留学先をイギリスのロンドンにした理由は、何だか落ち着くというか(笑)、ゆっくりモノを考えられそうな街だったからです。ニューヨークの“眠らない街”って感じは苦手だし、イギリスには春夏秋冬があるのもポイントが高かった。
ただし、実際に留学するまでには少し時間がかかりました。出演させていただいている番組の調整などもありましたから。留学を発表してから準備するのでは遅いので、仕事の合間を縫ってひそかに準備を進めていました。
家探しや銀行口座を開くのは、すべてロンドンに行ってから始めました。とにかくホテルに宿泊するお金が尽きるまでに住む家を探すぞ、と。何度も門前払いを食らいながらようやく銀行に口座を開設し、一人暮らし用の部屋も無事借りられ、やっと念願のロンドン生活がスタートしたときはホッとしましたね。
月曜日から金曜日まで、9時から夕方5時まで語学学校に通い、6時からは、月曜は演劇学校、火曜はダンス、水・木曜はヴォイストレーニングというように、びっしりスケジュールを詰めました。今から考えれば充実した毎日なんですけど、その時は頭がおかしくなりそうなぐらい忙しかった。
しかも、渡英時は中高生レベルの英語力でしたから、イギリス英語特有の発音やリズムに慣れなくて、全然聞き取れないんです。演劇学校のレッスンに行っても言葉が理解できないので前に進めない。焦りましたが、自分を追い込んで、食らいつくのに必死でした。
勉強の合間にたくさんの舞台を観たことも大きな収穫になりました。舞台って、言語がわからなくてもメッセージは伝わるんだ、ということもここで知ったんですよね。逆に、さまざまな国籍や信仰を持つ人たちを前にして、日本人である僕はどう表現するべきかということを深く考えたり。そんなことはイギリスに行かなければ考えもしなかったわけで。実際にロンドンの小劇場を借りて二人芝居を上演したことも得がたい経験になりましたね。
それと、イギリスでは本音で話せたのもよかったです。というのも、たとえばテレビのバラエティ番組で何か質問された時、僕はいつも、「この場では」どう返すのが最善かを考えたうえで答えをチョイスしてきました。答えの一部だけがピックアップされ、独り歩きすることもあるので、本音は絶対に言わない。それが体に染みついてしまって、いつしか自分の本音が何なのか見えなくなっていたんです。
「本音と建前」というのは日本の文化だからしょうがないと思っていたけど、建前で話すことは息苦しかった。イギリスで「あなたは、本当はどう思っているの?」と聞かれるたびに、「あ、本当は俺、こう思っていたんだな」って何度も気づかされましたね。