「最近は“劇的”でない、日々の出会いの大切さを身に染みて感じています。」

また、この映画で今泉(力哉)監督に初心に帰らせてもらえたのは、僕にとって大きな収穫でした。それは、バスに乗っている紗季ちゃんを全速力で追いかけて、佐藤が自分の思いを伝えるというシーンでのこと。今泉さんが僕の元に来て「相手の表情を見て、とにかく相手の演技を活かしてあげてください」とおっしゃったんですね。そう言われた瞬間、ビビッと胸に響いたんです、「そうだよな」って。

今までの僕は、自分の感情をどう出すかということに、少しとらわれすぎていたんじゃないかな、と。2人でお芝居をしている時には、相手の表情の変化や目の動かし方といったことに敏感にならないとダメなんだ、という初心を思い出しました。

今泉さんにはすっごく感謝しています。ドラマ『TWO WEEKS』でも、その教えが生きていると思う。ずっと大切にしていきたい、忘れちゃいけないアドバイスをいただけたと思っています。

 

劇的な出会いを求めていた子ども時代

僕の演じる佐藤という男は劇的な出会いを求めているけれど、『アイネクライネナハトムジーク』ではそういった“劇的”なことは実は起こらない。どちらかというと、何気ない小さな出来事を積み重ねながら、愛情を手繰り寄せていく……。皆さんに身近に感じていただけるような恋愛物語です。

佐藤に限らず、劇的な出会いを求める気持ちは誰にでもあると思うんです。もちろん僕も例外じゃない。これは、バカな奴だなあと思って聞いてもらいたいのですが、僕、小学生の時に好きな女の子がいたんですよ。でも、その子の家がわからなかったので、彼女の帰る方角を頼りに2回ぐらい自転車で探しに行ったんです。

これは当時の、あくまでも僕の想像の中での話ですが、いざ彼女の家を見つけたら、運よく玄関から出てきた彼女と目が合って、僕は板ガムをシュッと取り出し、カッコよく食べる姿を見せつける(笑)。そんな劇的なシーンの結果、その子が僕を好きになってくれる……という妄想を抱いて、彼女の家を探し回ったわけですけど、現実は厳しく、結局見つけられなかったんですけどね。(笑)

最近は“劇的”でない、日々の出会いの大切さを身に染みて感じています。今泉監督との出会いもそうです。ただ、僕は情熱があっても相手に自分の思いを説明して伝えるのが苦手。せっかく出会った相手でも、時間をかけないと気持ちを伝えられないことがあります。

でも、焦らずに時間をかけて話を聞いたり、この人はたぶんこういうことを言いたいんだろうなということを想像するように、いつも心がけています。そうすることによって、面白いつながりや、新しい出会いに発展することもあると思うんです。