家の中ではわからなかった、仕事に厳しい夫の顔

15万円稼げる仕事を探すよりもずっと合理的だし、なにより融通がききやすい。優美さんは夫の提案を受け入れ、週5日のフルタイムで受付の仕事を始める。

夫と同じ職場で働くのなら従業員への気遣いが必須と優美さんは考え、「院長の妻」の印象を弱め、「一従業員」になるように努力した。たとえば夫に対する愚痴が耳に入った時は、共感したり相談にのったりするのだ。

働き始めると、家の中ではわからなかった、仕事に厳しい夫の顔が見えてくる。患者が世間話の延長でする質問や相談にさえ、優美さんが答えることを許さなかったのだ。「あなたは歯科医師免許を持っていない。安易に答えて問題が起きたら、責任を取れますか?」とたびたび叱られた。

「『私は受付に専念すればいい』と割り切れるようになるまでは、夫の顔を見るだけで胃が痛み、胃薬が手放せませんでした」

懸命に働く優美さんだったが、息子が3年生になった春、ついに貯金が底をついてしまう。長年積み立てていた「中小企業退職金共済」を担保に400万円の借金をし、息子に無利子の奨学金(年間300万円)を申請させてなんとか乗り切った。