「結婚しない理由」をひとつずつ潰されて

そんな感じで自然におつきあいが始まり、2年くらいたった頃、「籍を入れませんか」と言われました。私は「結婚は面倒」という思いが先にたち、すぐには返事ができずにいました。でも兼光さんは粘り強く、私が「結婚をしない理由」を言うと、それをひとつずつ潰していくのです。

以前の結婚生活では、妻は夫の世話をするべきだと思っていたので、それなりに一所懸命やりました。でも親の介護や俳句の仕事を始めたこともあり、正直、大変でした。だから離婚して誰の面倒もみなくてすむようになって、本当に“楽ちん”だったんです。

せっかく離婚して手に入れた“楽ちん”を、手放したくはありませんでした。ですから兼光さんにも、「私、ダンナさんのお世話なんてとてもできません」と言ったんです。すると彼は、「自分のことは自分でしますから」。食事の支度がどうのと言うと、「それは僕がしますから」。

彼も結婚が初めてではなかったので、身の回りのことは何でもできました。そんな感じで、結婚しない理由がどんどんなくなっていく。こんなに丁寧に“詰将棋”をしてくださる方に、最後はもう、感謝するしかないなぁ、という気持ちになったのです。

そうそう、仕事で地方へ行き、ホテルのバイキングで朝食をとっていたときのことです。「少しは女らしいところを見せよう」と、お味噌汁を兼光さんに運ぼうとしたのですが、彼のズボンに盛大にこぼしてしまい、大騒ぎ。「これからは、あなたは何もしないで座っていてくださいッ」と厳命されて以来、本当に何もしないようになりました。二人の間で“味噌汁事件”と呼んでいます。

すでに成人していた子どもたちからは、「僕らがこの先ずっと、いつきさんの相手をしたり面倒みたりするのはへヴィー(重い)やから。誰かおってくれたほうがいい」と言われました。その言葉を聞いて、「私は子どもたちに迷惑をかけていたんだ」「私の物思いや自分勝手な行動を受け止めてくれる人がいたら、彼らも楽なんだなぁ」と、ハッと気づいたのです。

また、前の夫が再婚したことも、次に進むきっかけになったのかもしれません。そんなこともあって、49歳のとき、再婚する決心をしました。